マチュピチュ(宇佐)=田中一世】世界中の観光客のロマンをかきたてる南米・ペルーの世界文化遺産「マチュピチュ」。記者も1度は訪ねたいと思いつつ、時間も金も余裕がなく憧れるだけだった。ところが、大分県宇佐市に、景観がそっくりで「宇佐のマチュピチュ」と呼ばれるスポットがあると聞いた。いざ憧れの“空中都市観光”へ。胸を躍らせながら大分県の山中へ向かった。
噂のスポットは、平成17年に宇佐市と合併した旧院内町の西椎屋(にししいや)集落。大分道を走り、玖珠(くす)インターチェンジで降りる。マチュピチュを築いたインカ帝国の首都クスコと名前が似ているのも、何かの縁だろうか。
インターから国道387号を北東に走ること30分。カーナビの画面でもそろそろ西椎屋のはず…。だが、見つからない。どうやら見過ごしてしまったようだ。
引き返すと、国道の左側に広がる谷間の奥に、頂上が尖った円錐(えんすい)形の小山(高さ約200メートル)が見えた。
慌てて車を止めようとするが、スペースがない。脇道に入り、広めの路側帯でエンジンを切る。そこで道路脇に設置された案内板を発見した。
「空中都市と称されるマチュピチュに似ていませんか?」
親切にもペルーの本物の写真も載せてくれている。確かに、尖った山の形は、マチュピチュの聖なる山ワイナピチュの輪郭と重なる。山麓に広がる棚田の石垣と集落の家屋も、空中都市マチュピチュの城壁のように見えなくもない。
画家やプロカメラマンのように両手の親指・人差し指で四角形のファインダーを作り、目を凝らすと…。なんと憧れのマチュピチュが浮かび上がるではないか。
この宇佐のマチュピチュは、住民グループが案内板を設置した平成22年頃から見物客も増えた。週末になると1日に何台もの車がこの場所を訪れ、記念写真を撮って帰るという。県外ナンバーも少なくない。見物客がブログで写真を公開するなどし、静かなブームの兆しが見える。
「念願かなった」とまでは言えないが、心はコンドルのようにアンデス山脈の大空を飛んだ。ちなみに本物のマチュピチュに行こうと思ったら、JTBの4泊7日の旅(成田発着)で41~61万円。これに比べると、何とお手軽だろうか。思わず「得した!」と思ってしまった…。
次に、ふもとの西椎屋集落を訪ねた。17戸の民家があるが、大半は高齢世帯。市有形文化財の樹齢1300年の大イチョウがシンボルだという。
円錐形の山は、昔から「秋葉様(火伏せの神)」と呼ばれる信仰の対象であり、頂上に祠(ほこら)もある。
「観光客に『マチュピチュに似てますね』と声をかけられるけどペルーに行ったことないからわからんのですよ…。マチュピチュって言うのも難しくて最近やっと言えるようになりました。まあ、私らにとっては秋葉様は秋葉様。昔からそこにあるものです…」
西椎屋で生まれ育った住民の小野加代さん(77)はこう語る。
大イチョウには「幹を触ると母乳が出るようになる」という言い伝えがあり、昭和30年代までは集落外からの訪問客もいたが、最近はすっかり途絶えていた。住民で元宇佐市議の河野征夫さん(76)はこう喜ぶ。
「マチュピチュ効果で再び外から人が来るようになった。活気が出てきた気がします。本当にありがたいことです」
「日本のマチュピチュ」といえば、兵庫県朝来(あさご)市の国史跡「竹田城跡」が、雲海に石垣が浮かび上がる姿がメディアに取り上げられ、すっかり有名になった。平成25年度は約51万人が訪れたという。
知名度と集客力では竹田城跡に遠く及ばない西椎屋だが、河野さんはにっこりと笑ってこう言った。
「竹田城は石垣がよく似ちょるし、こっちは山の形が似ちょるわな。どっちが上かは言われんが、両方似ちょるということですよ」
ペルーのマチュピチュは103年前、映画「インディ・ジョーンズ」の主人公のモデルとなったアメリカの探検家ハイラム・ビンガムが発見した。
では、宇佐のマチュピチュの発見者は誰なのか-。宇佐市役所に聞いたところ、元市職員、松本公則さん(66)と判明した。
旧宇佐市と旧院内町の合併を控えた平成15年秋。旧宇佐市職員で合併協議会事務局長だった松本さんは調査のため、西椎屋近くを通りかかり、こう直感した。
「あの山は最近テレビで見たペルーのマチュピチュに似ちょる!」
これを市観光協会の知人に伝えたところ、話があちこちに伝わり、平成18年9月の宇佐市広報誌で紹介された。
「街おこしに活用しよう」との機運が高まり、20年に河野さんの呼びかけに応じて集落出身者が「大銀杏の会」を結成した。
大銀杏の会は22年に案内板を設置し、23年には展望所で南米の楽器のケーナとオカリナによる「マチュピチュの郷コンサート」を開催、宇佐市民ら150人が悠久のインカの歴史に思いをはせた。
今でも西椎屋の風景を描いた「マチュピチュトートバッグ」(600円)ならば、近くの「道の駅いんない」(宇佐市院内町副)で購入できる。
大銀杏の会のメンバーは30~60代の17人が参加するが、最近はPR活動が滞り気味。きちんとした展望台や駐車場が整備されていないので観光バスも立ち寄れないことが大きなネックとなっている。ついでに肝心の西椎屋集落が高齢者ばかりとなり、街おこしへの関心が今一つなのだという。
それでも大銀杏の会事務局長で市職員の井上涼治さん(53)は熱く夢を語った。
「宇佐マチュピチュによる街おこしはまだまだこれから。今年度から駐車場と展望台の整備に向け、本格的な検討を始め、来年度に作れればいいなと思っています。秋葉様に登る道も整備したいですね」
ただ、発見者の松本さんには複雑な思いもある。
「今となっては、変なことを言い出してしまったんじゃないかとちょっと怖いんです。あの一帯は独特の地形で『椎屋耶馬溪』ともいわれる風光明媚(ふうこうめいび)な場所。マチュピチュのパクリみたいな形で有名になったら住民の皆さんに失礼じゃないのかと…。記者さん、西椎屋のよいところをアピールしてくださいよ」
確かに、山並みを背景に棚田と集落が続く光景は、日本の原風景そのもの。その魅力はマチュピチュに似ていることだけではない。
記者も「紅葉がきれいな秋に、またドライブに来たい」と思っている。記者が将来、ペルーのマチュピチュに行ったらおそらく「西椎屋っぽい」と感じるのではないだろうか。
もうすぐゴールデンウィーク。今年は曜日配列が悪く海外旅行が難しいだけに、自然がいっぱいの「プチ世界遺産」へ旅立ってはいかがでしょうか。
《産経新聞より抜粋》
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- 2014/04/26(土) 19:39:19|
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